運命の出会い
運命の出会いについて考えてみたい。「出会い」という言葉は、もう手垢にまみれてしまって、その言葉自体に、とくに何か特別なものは感じない。しかし、「出会い」に「運命の」という形容詞がつくと、何かドラマチックな出来事のように思える。今まで生きた中でそういった出会いがあったかどうか、記憶の糸をたどっていくと、たしかにそれらしき出会いはあった。3人の男たちだ。ただしこれらの男たちは、そのうちの2人がずっと以前に他界し、あとの1人もそれに近い状態で、互いに連絡を取り合うことはない。人生のある時期に出会って、人生のある時期に、私の前からその実体的な存在はなくなった。いま現在は何らの交流もない男たちだが、少なくとも、私に何らかの影響を及ぼした男たちだ。1人は趣味の世界に、1人は学術の世界に、あとの1人は内面的な世界に。彼らの口から出た何十年も前に発せられた言葉が、今もそのときの表情とともに蘇ってくる。きっと私の心の深くに入り込んでいるのだろう。運命の出会いとは、心の奥深くに入り込めるエネルギーを持った言葉を発する相手との出会いのことだ。3人の男たちは、自分の発した言葉が、私にどれほどの影響を与えたかなんてことは知らないだろう。だけど、私にとっては、やはり彼らは運命の男たちだ。