運命学へ(37)
ヘンリー・ミラーの小説に、あるスイス人占星術師に肩入した主人公の、その人物との同居生活でおきた厄介ごとを描いた作品がある。自伝作家といわれるミラーであるが、その小説に実名で登場する占星術師のコンラッド・モリカンは、著作などもある実在した人物であり、カリフォルニアで実際にミラーと同居生活を送った。モリカンは、「信仰心が欠如」し、「あらゆることに対して答えがあり」、また「知識の道を選択した」陰鬱で貴族的な男である。いわゆる情報の塊であり、同時に鉄の意志をもち合わせているのがモリカンの特徴なのだが、占いに対して様々な意見を持っているミラーは、その感受性を批判的に駆使して「コンラッド・モリカン」という人物を創り上げるにいたった。占星術の世界では、長い間に集めた膨大なデータから抽出した理屈であらゆることを推し量るので、あらゆることに対して何らかの答えが用意されている。経験知ともいうべき「知識の道」の行き着くところは、小説の最後にあるように、「浮浪者の最期のように丸はだかで、鼠のように唯ひとり」死んだモリカンだった。