藤の呪い

 「藤の花が見たいなあ」と言い残して三月末に亡くなった人がいる。私はその時その言葉を聞いていた。そしてあろうことか、その人の死後何年もたって、新しく買った中古住宅の庭になんとなく、ほんとうになんとなく一才藤を植えた。一才藤の花が満開を迎えた4月末に、ふっとその人のことを思い出した。その人は、藤の花が咲くころまで生きたいとも言っていたが、花の季節になるまで生きられなかった。私はその人の言葉にずいぶんと長い間、呪縛されていた自分を知った。

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