運命学へ(57)
食事の席で、人相見は言った。
「今朝、額に赤い線が入っていた。遠方から人が来るときに入る。あなたのこと」
わたしはさすがは人相見だと思った。食事しながら、ときどき顔の皮膚の下にある何かを探るような目つきで見られているのを感じた。わたしはそんな風に見られることに慣れておらず、初対面の見ず知らずの人と食事していることもあり、まともに相手の顔が見れなかった。何を話したのかあまり思い出せないが、「自分の顔は若衆面で、やはり若衆面の人と相性がいい。これにはいろいろな因縁があってなあ」とつぶやいた様子と、「あなたは、あとは目やなあ」とわたしの顔をじっと見て言った言葉が印象に残っている。次の日、早朝のバスで帰路についた。これで人相見との一件は終わりなのだが、随分と大胆な厚かましいことをしたものだと思う。最近ひょんなことから、あの人相見は日本の観相界の第一人者と評されるほどの人物になっていることを知った。名前と顔を確かめたが、確かに高知で食事をご馳走になった人相見と同一人物だった。なぜあのとき、あの人相見はあれほど親切にもてなしてくれたのだろう。わたしの顔に何か不穏なものが現れていたのだろうか。もう一度現地に行って、今度は食事をこちらがご馳走させていただく機会に恵まれることを祈りたい。おそらくわたしのことなど覚えていないだろうけど。