運命学へ(48)

母親を描くこと、これがミラーの最後の最後にあった大きな課題だった。最晩年に書かれた小説『母』は、感情的に許せなくて、実人生でどうしようもなくすれ違ってしまった母と、死後に幽界で出会って和解する物語である。この小説を描くことで、ミラーは自分の潜在意識にある欠落部分を満たし、その後小説を書かなくなった。もう書く目的を達成してしまったので、書く必要がなくなったのだ。自分にふりかかった不運は、全てが母親の胎内から生まれ出た瞬間からはじまった。それゆえ自分の運命を改善するには、いったん母親の胎内にもどって、いろいろな嫌な記憶や感情を消し去る必要があると考え、それらを小説世界で再現しながら、自己内部の潜在意識に巣食った記憶の浄化に努めたのである。自分のなかにある事実や感情を浄化するために、どうしても一連の作品(パリ在住のときの作品)を描く必要があったのである。その後は運命が改善され、ミラーは無名の貧乏作家から一躍有名作家として活躍の場が与えられることになる。ミラーがパリ在住時代にやったことは、自分の潜在意識の浄化だったのである。

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