自分を変える13
馬は仕切られた囲いの中を何週も走り続けた。馬場にいたほかのインストラクターが茫然とわたしを見ていた。乗っているうちに、体の浮き幅も小さくなり、それでいて弾力のある柔らかい感触はかわらず、空に溶け込むような自由さを味わい続けた。そのうち、止めてくださいと指示する声が聞こえたので、ふくらはぎを馬の腹に密着させて、じんわりと内側に圧した。きわめてスローモーションの動きで馬はそっと止まった。普通、初心者用の馬は、不慣れで緊張した人間に、混乱した合図を出され続けることで壊れていくものだが、たまたま適切に調教されたいい馬にめぐりあわせたようだった。こちらからの軽い合図を、馬は集中して理解している。乗馬でこうした爽快さを味わったら、乗馬をやめられなくなる。きっとそうだ。過去に詰め込んだ乗馬の知識が、はじめて自分の血肉になった日だった。物事はそのときはできなくても、違うタイミングで一ぺんにできるようになる。自分をあきらめる必要なんて毛頭ない。