繁華街
繁華街を行くあてもなく歩いた時期がある。何かにとりつかれたかのように、ただ歩いた。どこかに用事があるというわけではなく、何かほしいものがあるというわけではなく、人間が好きというわけでもなく、漠然と何かを探しているような、実感も実体もない何かを。今思い返してみると、なんて無益なことをしていたのだろうか。何かわからないものを懸命に見つけようとしていた。冷えた情熱をもって、繁華街をひとりぽっちで歩いた。友人がいなかったわけではなく、やることがなかったわけでもない。むしろ、当時はふつうの大学生よりも忙しかった。当時のわたしは、女子大の大学院の学生で、しかも毎日のようにアルバイトをしていた。そう、歩き回ったのは、平日の午前中の、アルバイトも大学院の授業もない空き時間だった。平日の午前中は繁華街でさえ、人気のない寂しい通りになっていた。わたしはその寂しい通りを、ひとりぽっちで歩いていた。