自分を変える3

右手に持った手綱をいくら前に押し出しても、馬はぴくりともしない。まったく歩き出すそぶりもない。何度ためしても同じだった。インストラクターが見かねて、わたしから手綱を持ち替えて、ぐっと前に、馬の鼻先に向かって手綱を押し出した。馬はようやく気がついたかのように、ゆっくりと前足を動かし始めた。もうこの時点で乗馬に挫折を感じたが、まだ始めたばかりだった。思い直して、そのままゆっくりと馬場への一本道を歩いて行った。右側通行の道だったが、向こうからくる同じように引き馬をしている人とすれ違うとき、馬同士がけんかしないかと不安になった。犬の散歩でときどきそういった状況がある。わたしの不安をよそに、馬同士は互いに無関心だった。人間同士は不安な心中を確かめあうように、互いに会釈しあった。自分の不安に共感する人間の存在はありがたかった。心臓の鼓動が少しおさまった。馬場のほぼ真ん中あたりまで出た。

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