連滴
はるか昔、連滴という言葉を教えてくれた人がいる。記憶の海に沈んでいたはずの言葉なのに、とつぜん浮かび上がってきた。好奇心がわいて辞書で調べてみたが、どの辞書にもこの言葉はない。それで、ようやくわかった。これはその人が創り出した言葉なのだと。その人はこんな風に言った。「滴がたれる。最初はぽとぽとと落ちるスピードが速いけど、そのうちぽたりぽたりと遅くなり、もうこれで終わりとばかりにぽたっと落ちる。実はこれからが本番で、最後の一滴が落ちたと思っても、さらにまだもうひとしずく、極めてゆっくりぽつんと落ちる」そのときは、何事もあきらめちゃいけないという意味だと思った。だけどいま、この言葉を言ったその人は、当時ものすごく無理をしていたんだなと感じる。ぽつんと一人。最後の最後にある一滴なんて、しぼりだしちゃったら命を終えるしかない。